猟奇、夢は夜ひらく

「曰く、ある嵐の一夜、江戸川乱歩が書斎として使っている土蔵に稲垣足穂が訪れ、美少年の菊座について語り明かした」

「曰く、横溝正史は乗り物恐怖症という奇妙な病を患っていたが、その原因について山田風太郎は固く口をつぐんだまま死んだ」

「曰く、夢野久作小栗虫太郎そして中井英夫。生前のこの三人に接点が無かったことはほぼ間違いないが、ある恐ろしい共通点を見いだした研究家がいた」

にわかには信じがたい話ばかりであるが、出てくる名前があまりにそれらしくて実に良い。シリコンと有機化学の世界が味気なく思える昨今、たまにはこんな怪奇で浪漫な時代に遊びにいってみたくなる。
そして、振り返ると稲川淳二が立っている季節になったので、どちらかといえば怪奇の方がよりよいのだが、あまり血の気が多すぎるのはできれば避けたい。できれば座敷に置いた氷柱のような和風がいい。そう、怪奇というよりも怪談だな。
しかし、猟奇と怪談。この二つの距離はかなり遠い感じがしないでもない。けれどもこの二つの要素を兼ね備えた、鶴屋南北による東海道四谷怪談という名作のことを考えるとそれほど遠いものでもないか。
もう少し暑くなったら百物語でもやってみようかと思う。