某日某書店にて

ターミナル駅のかなり大きな書店で。
「実際、かなり悩んだんですよ」
と店員がネクタイを締めた営業マン風の男に説明していた。
「タイトルからすると日本の歴史コーナーかと思いました」
なるほど。
「でも、表紙の感じからいうとマンガかな、と」
ふむふむ。
「そして御社の既刊はほとんどここにあるわけでして」
同時に私が立ち読みしていた場所でもある。
「結局、今月は発行部数が多かったので、まだ棚に並べていません」
おいおい、そいつはそのまま取り次ぎに返すんじゃないんだろうな?
「ところで、他の書店ではどこに置かれているんですか?」
逆に店員が尋ねた。私も興味があった。
男は少し考えてから。
「…。新紀元社さんなんかと同じところが多いですね」
といった。
そりゃマンガ専門店のことだろう、と私は心の中で突っ込みをいれた。
店員と男の間にあいまいな空気が流れた。
「じゃ、またなにかありあましたらひとつ」
「どうもどうも」
という会話の内容に触れない日本的やりとりの後、店員は立ち去った。
男は目の前の乱れた棚を整理し始めたので、私はフランス軍入門 (ミリタリー選書 (28))を持ってレジに向かった。
萌ゆる古事記がなかなか世間に出回らないことにも、理由がない訳ではないのだ。