斜陽・平成

たしかに平成というのは日本という国が午後に入ったしるしだったのだ。
晴れた冬の日のように陽は足早に傾き、風景には長い影が寄り添っている。そしてそんな影は見ている間に夕闇の中へと溶けていく。
勇気と力がある者は真昼の中国や印度、伯剌西爾露西亜へとゆくがいい。
子供達が日本人で無くなることは、それほど不幸なことじゃないから。
国際化した資本・企業は老人達の元から遠のき、残されたのは使い古した文化の滓。
残忍な活力は祖父や父達によって遣い尽くされた。
なので、私たちは限りないやさしさだけを頼りに生きてゆこう。
没落した家の末席に連なる者として生きていく。
これから日本に住まう者はそういう覚悟、まさしくデカダンスを胸に刻まなければならない。

斜陽 (新潮文庫)

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